抗がん剤の副作用を軽減する清熱解毒薬

【抗がん剤の副作用が起こる原因】

抗がん剤治療を受けているときには様々な副作用が起こります。その理由は、抗がん剤ががん細胞だけでなく、正常細胞にもダメージを与えるからです。特に細胞分裂の盛んな骨髄細胞(赤血球、白血球、血小板)やリンパ球や消化管の粘膜細胞は抗がん剤で死にやすいので、貧血、白血球減少、血小板減少、免疫力低下、下痢、食欲不振などの副作用が起こります。細胞分裂が盛んでない臓器でも、抗がん剤はダメージを与えます。肝臓や心臓へのダメージは体力低下や倦怠感を引き起こします。

抗がん剤治療に伴う食欲低下や倦怠感の原因は、抗がん剤によって正常の組織や臓器がダメージを受け、その働きの低下によるものと一般的に考えられています。しかし、正常細胞への直接的なダメージの他に、抗がん剤が炎症性サイトカインの産生を高めることによって食欲低下や倦怠感を引き起こしているメカニズムが知られています。

【炎症性サイトカインとsickness behavior】

細菌やウイルスなどの病原菌や、体にとって害になる異物の侵入に対して、体は免疫細胞によってこれらを排除するシステムを持っています。これらの病原菌や異物は、まずマクロファージ樹状細胞に取り込まれて分解され、その抗原となる部分がマクロファージや樹状細胞の表面に移動してきます。これを抗原提示といい、マクロファージや樹状細胞を抗原提示細胞と言います。

抗原提示細胞の表面に提示された抗原はTリンパ球によってよって認識され、その抗原を排除するために他のリンパ球を活性化します。活性化されたリンパ球には、病原菌や異物を直接殺す働きをするキラーT細胞や、B細胞からの抗体の産生を指令するヘルパーT細胞などがあります。これらのリンパ球の働きによって、病原菌や異物は処理され排除されます。

このような免疫細胞が活性化される過程で、抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)やリンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞)などは、サイトカインという蛋白質を産生して、お互いを制御したり活性化するための伝達物質として使っています。サイトカインは、傷の修復や炎症反応でも重要な役割を果たしています。つまり、サイトカインというのは、細胞の増殖、分化、細胞死などの情報を伝達し、免疫や炎症や創傷治癒など様々な生理機能の調節を担う蛋白質です。

ホルモンは分泌する臓器(甲状腺や卵巣などの内分泌臓器)があり、比較的低分子のものが多いのですが、サイトカインの多くは蛋白質で、リンパ球や炎症細胞などから分泌されます。サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体に結合することによって、受容体に特有の細胞内シグナル伝達の引き金となり、極めて低濃度で生理活性を示します。

白血球が分泌し免疫系の調節を行なうインターロイキン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の働きをもつインターフェロン、様々な種類の細胞増殖因子など数百種類のサイトカインが知られています。炎症反応に関与するものを炎症性サイトカインと呼んでいます。

マクロファージは刺激を受けるとインターロイキン-1(IL-1)インターロイキン-6(IL-6)腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)といったサイトカインを分泌します。これらは炎症性サイトカインと呼ばれ、炎症の部位に他の免疫細胞や炎症細胞を集め、炎症反応や免疫応答を開始する役割をもっています。このような反応を急性期反応(acute phase response)と言います。急性期反応(acute phase response)は、感染、悪性新生物、外傷、外科的侵襲などのストレスに対する生体の生理的な防御機構で、免疫担当細胞が産生するサイトカインがメディエーターとなって惹起されます。

急性期反応では、炎症の起こっている局所だけでなく、体全体に様々な症状が発現します。
感染症における急性期反応で見られる特有の症状や行動は
sickness behavior(病的行動)と呼ばれています。Sickness behaviorの症状として、倦怠感、食欲や意欲の低下などがあります。

sickness behaviorは元来感染に対する防御応答であると理解されています。すなわち体内に侵入した細菌の増殖を抑えるために、細菌の増殖に必要な微量元素等を必要以上摂取しないようにするために、食欲が低下すると説明されています。またこのような栄養が供給されないような状態に耐えるために、自らの行動を抑え、エネルギーの消耗を控えるために、行動が低下すると考えられています。このような症状は炎症性サイトカインの産生増加によって起こります。

さて、抗がん剤の副作用の症状が、sickness behaviorと似ているということから、抗がん剤の副作用と炎症性サイトカインの関係が研究されるようになりました

【抗がん剤の副作用と炎症性サイトカイン】

感染症で見られるsickness behaviorと類似の症状はインターロイキン-2や種々の抗がん剤の投与でも発生すると報告されています。さらに、がん細胞による組織の障害や、がん細胞に対する体の反応として、炎症性サイトカインが産生されることも指摘されています。

抗がん剤治療の副作用としてみられる症状が、IL-1, IL-6, TNF-αの産生増強によってみられる症状と類似していることが指摘されています。これらの炎症性サイトカインは、発熱、倦怠感、食欲低下を引き起こします。長期間に及ぶと、さらに、貧血、抑うつ、認知力や記憶力の低下も起こります。痛みに対しても敏感になるため痛みが増強します。末梢神経の障害も炎症性サイトカインの関与が指摘されています。

抗がん剤の末梢神経障害によるしびれや感覚低下は、微小管などの神経細胞自体のダメージが原因になっていますが、炎症性サイトカインの産生もダメージを増強しているという意見があります。NF-κBの活性を抑えて炎症性サイトカインの産生を阻害すると、神経や腎臓のダメージを軽減する効果があるという報告もあります。

貧血も骨髄抑制だけでは説明できない場合があります。炎症性サイトカインは赤血球の産生を阻害する働きがあることも知られています。

このように、抗がん剤の副作用の発現には炎症性サイトカインの関与があり、炎症性サイトカインの産生を抑える治療は抗がん剤の副作用緩和に効果が期待できると言えます

【炎症性サイトカインの産生を抑える清熱解毒薬】

組織や臓器のダメージが原因であれば、細胞保護作用や修復を促進する作用を目標にすることが、抗がん剤の副作用緩和に効果が期待できると言えます。

抗がん剤治療中の体力低下や倦怠感の治療を目的とした漢方治療では、滋養強壮薬が主に使われます。すなわち、体力や抵抗力を高める高麗人参(コウライニンジン)、紅参(コウジン)、田七人参(デンシチニンジン)のような人参(Ginseng)類や、黄耆(オウギ)、大棗(タイソウ)、炙甘草(シャカンゾウ)、当帰(トウキ)、熟地黄(ジュクジオウ)、枸杞子(クコシ)、女貞子(ジョテイシ)などの生薬を多く使います。

また、抗がん剤によって低下した免疫力を高める目的で、霊芝(レイシ)、梅寄生(バイキセイ)、茯苓(ブクリョウ)、猪苓(チョレイ)などのサルノコシカケ科のキノコが多用される傾向にあります。

このような滋養強壮薬は、ダメージを受けた細胞や組織の修復や回復を促進する目的では有効です。しかし、このような滋養強壮薬や免疫増強薬だけでは、食欲低下や倦怠感や体重減少などの副作用の緩和にあまり効果が無い場合も多く経験します。むしろ逆に副作用が悪化するように感じることもあります。免疫を高めるといわれる生薬や健康食品はマクロファージや単球を活性化して炎症性サイトカインの産生を高めるので、場合によっては、これらの滋養強壮薬は副作用を悪化させる可能性があるからです。実際に、動物実験では、パン酵母由来のβグルカンの投与で摂食低下が起こるという実験結果があります。

発熱、血中のCRP(C反応性蛋白)、フィビリノゲン、ハプトグロビンの濃度が高いときには炎症性サイトカインの産生が高いといえます。IL-1とTNF-αは肝細胞に作用してCRPを誘導し、IL-6はフィブリノゲン、ハプトグロビンなどを誘導するからです。このような場合には、免疫細胞を刺激する治療よりも炎症を抑える治療の方が有効です。

炎症性サイトカインの産生を抑える治療として、西洋薬では、副腎皮質ホルモン、プロスタグランジンの産生を抑えるシクロオキシゲナーゼ阻害剤、TNF-αの産生を阻害するサリドマイドなどがあります。

漢方薬でも、抗炎症作用やNF-κBの活性阻害をもった生薬を使用することによって炎症性サイトカインの産生を抑える効果があります。そのような効果をもつ生薬として清熱解毒薬があります。

清熱解毒」という薬効を西洋医学的に解釈すると、抗炎症作用と体に害になるものを除去する作用に相当します。体に害になるものとして、活性酸素やフリーラジカル、細菌やウイルスなどの病原体、環境中の発がん物質などが考えられますが、「清熱解毒薬」には、抗炎症作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒酵素活性化作用などがあります。

清熱解毒薬に分類される生薬としては、黄連(オウレン)・黄ごん(オウゴン)・黄柏(オウバク)・山梔子(サンシシ)・欝金(ウコン)、夏枯草(カゴソウ)・半枝蓮(ハンシレン)・白花蛇舌草(ビャッカジャゼツソウ)・山豆根(サンズコン)・板藍根(バンランコン)・大青葉(タイセイヨウ)・蒲公英(ホコウエイ)などがあり、感染症や化膿性疾患に使用されていますが、がん治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強にも有用な生薬です。

清熱薬の代表である黄連(キンポウゲ科オウレンの根茎)には、がんを移植したマウスの実験で悪液質改善作用が報告されています。その機序として、炎症性サイトカインの産生抑制やがん細胞増殖の抑制作用などが示唆されています。

黄ごん(オウゴン)に含まれるフラボノイトや、ウコンに含まれるクルクミン、板藍根大青葉に含まれるグルコブラシシンがNF-κBを阻害して炎症性サイトカインの産生を抑えることが報告されています。

以上にような根拠から、炎症性サイトカインの作用を抑える漢方薬を併用すると、抗がん剤の副作用の軽減効果をさらに高めることができます(図)。

図:抗がん剤によってマクロファージやリンパ球やがん細胞からインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)が産生され、これらの炎症性サイトカインの作用によって様々な症状が発現する。このような炎症性サイトカインが関与した副作用の軽減には漢方薬の清熱解毒薬が有効な場合がある。
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