コーヒーや野菜にも肝臓がん予防効果がある
前述の「漢方治療はB型慢性肝炎患者の肝臓がんの発生リスクを半分程度に低下させる」という結果は多くの人は信じないかもしれません。しかし、他の疫学研究の証拠から、これは簡単に納得できるのです。
つまり、「コーヒー摂取が多いほど肝臓がんの発生が少ない」「野菜摂取が多いほど肝臓がんが少ない」という疫学データが数多く報告されており、現在では、これらは確実な事実として認識されています。 実は、コーヒーや野菜が肝臓がんを予防するメカニズムと、漢方薬が肝臓がんの発生を予防するメカニズムはほとんど同じなのです。
コーヒーの肝臓がん予防効果
複数のコホート研究や症例対照研究でコーヒーの肝臓がん予防効果が示されています。
南欧と日本で行われた症例対照研究 6 件(肝臓がん1,551例)と日本で行われたコホート研究 4 件(肝臓がん709例)のメタ解析の結果、コーヒーを飲まない群と比べてコーヒー摂取群では肝臓がん発症リスクが全体で41%低下することが明らかになっています。(Hepatology 46: 430-435.2007)
米国で行なわれた前向き大規模臨床試験 (HALT-C)では、C型肝炎による線維性架橋形成か肝硬変が肝生検で確認され、ペグインターフェロンとリバビリンの併用治療で効果がなかった766名を38年間追跡しています。 3か月ごとに肝疾患の進行、肝関連死亡、肝性脳症、肝細胞がん、静脈瘤出血、肝線維化の進行などを評価しました。その結果、1日に3杯以上コーヒーを摂取すると、慢性肝炎の進行度が半分くらいに低下することが示されました。(Hepatology 50: 1360-1369, 2009) この臨床試験では、コーヒーを1日3杯以上摂取している人はコーヒーを飲まない人に比べて、ペグインターフェロンとリバビリンの治療効果(ウイルス減少量)が高いという結果も得られています。 (Gastroenterology. 140: 1961-9, 2011)
シンガポール在住の中国人男女63,257人を対象にした前向きコホート研究(Singapore Chinese Health Study)では、1日3杯以上のコーヒーを飲む人は、コーヒーを飲まない人に比べて肝臓がんの発生率が44%減少することが報告されています。(Cancer Causes Control. 22(3): 503-510, 2011 )
以下のような論文もあります。
Association of coffee intake with reduced incidence of liver cancer and death from chronic liver disease in the US multiethnic cohort.(米国の多民族コホートにおける、コーヒー摂取と肝臓がんの発生率および慢性肝疾患による死亡の低下との関連)Gastroenterology. 2015 Jan;148(1):118-25
【要旨】
研究の背景と目的:肝細胞がんや慢性肝疾患の発症リスクを減らすためにコーヒー消費が提案されているが、米国の多民族人口を対象にした前向き試験の研究データはほとんど無い。我々は、米国多民族コホートの162,022人のアフリカ系アメリカ人、先住民ハワイ人、日系アメリカ人、ラテン系人および白人のコーヒー摂取と肝細胞がんおよび慢性肝疾患との関連性を検討した。
方法: 1993〜1996年にハワイ州とカリフォルニア州の215,000人以上の男女を対象とした集団ベースの前向きコホート研究から多民族コホートのデータを収集した。参加者は、この研究に参加したときに、コーヒー消費量やその他の食生活や生活習慣要因を報告した。 18年間のフォローアップ期間中、肝細胞がんの事例が451件、慢性肝疾患による死亡が654件発生した。ハザード比および95%信頼区間は、既知の肝細胞がんリスク因子を調整して、Cox回帰を用いて計算した。
結果:高レベルのコーヒー消費は、肝細胞がんの発生率の低下および慢性肝疾患による死亡率の低下と関連していた。
コーヒーを飲まない群と比較して、1日2〜3杯のコーヒーを飲んだ人々は、肝細胞がんの発症リスクが38%減少した(ハザード比 = 0.62; 95%信頼区間:0.46-0.84)。 1日4杯以上を飲んだ人は、肝細胞がんの発症リスクが41%低下していた(ハザード比 = 0.59; 95%信頼区間:0.35-0.99)。
コーヒーを飲まない群と比較して、1日2〜3杯のコーヒーを飲んだ人々は、慢性肝疾患による死亡リスクが46%減少した。(ハザード比 = 0.54; 95%信頼区間:0.42-0.69)。さらに、1日4杯以上のコーヒーを飲んでいた群では、慢性肝疾患による死亡リスクが71%減少した(ハザード比 = 0.29; 95%信頼区間:0.17-0.50)。
コーヒー消費量と肝臓がん発生率および慢性肝疾患による死亡率との間の逆相関は、参加者の民族性、性別、肥満指数、喫煙状態、アルコール摂取または糖尿病の状態にかかわらず同様であった。 結論:コーヒー消費の増加は、多国籍の米国人口における肝細胞がんおよび慢性肝疾患のリスクを低減する。
つまり、コーヒーを多く摂取すると肝臓がんの発生も、慢性肝疾患による死亡も低下し、用量依存性があるということです。 他にも、コーヒー摂取量と肝臓がん発生の関連性を検討した疫学研究は数多くありますが、そのほとんどで同様の結果が得られています。
野菜のがん予防効果
日本の厚生労働省研究班の多目的コホート研究(JPHC Study)が報告されています。(Br J Cancer. 100(1): 181-184.2009)
この研究では、40〜69 歳の 19998人の男女の 約12 年間の追跡調査データを分析しています。 追跡期間中に101 人 (男性69人、女性32人) が肝臓がんと診断されました。 野菜、緑黄色野菜、緑葉野菜の摂取量が多い上位3分の1のグループは、最も少ない下位3分の1のグループと比較して、肝臓がんのリスクがそれぞれ 39%、 35%、 41%低下しました。 αカロテンとβカロテンの摂取量の多い上位3分の1のグループは、最も少ない下位3分の1のグループと比べて、肝臓がんのリスクがそれぞれ 31%と 36 %減少しました。
果物は摂取量が増えると肝臓がんリスクが増加する傾向が見られました。 しかし、果物ジュースを除くと、リスクの増加は消失しました。
ビタミンC の摂取量が多い人々は、肝臓がんリスクが高い傾向が認められました。 ビタミンC には、肝臓がんのリスク要因の1つと考えられている鉄の吸収を高める作用があることが関係していると考えられると考察しています。
肝臓がんの場合、野菜摂取は多いほど発生率を低下させる効果がありますが、果物にはそのような効果は無い様です。果糖は肝臓の中性脂肪の合成を増やし、ビタミンCは鉄の吸収を促進するので、肝臓がんの発生を促進する可能性もあるようです。 野菜と果物と肝臓がんの発生に関して、以下のような報告もあります。
Fruit and vegetable consumption in relation to hepatocellular carcinoma in a multi-centre, European cohort study(多施設欧州コホート研究における果物および野菜の摂取と肝細胞がんの関連)Br J Cancer. 2015 Mar 31; 112(7): 1273ー1282.
この研究では、がんと栄養に関する欧州前向き試験(the European Prospective Investigation into Cancer and nutrition)に参加した総計486,799人の男女を平均11年間追跡し、201例の肝細胞がんの発生を認めています。 その結果、野菜の場合は摂取量が多いほど肝細胞がんの発症リスクは統計的有意に低下し、野菜を100g摂取すると肝細胞がんの発症リスクのハザード比は0.83(95%信頼区間:0.71〜0.98)でした。つまり、野菜の摂取が100g増えると、肝細胞がんの発症率は17%低下するということです。300gの摂取で肝細胞がんのリスクは半分くらいになることになります。 しかし、果物の摂取は肝細胞がんの発症リスクとは関連を認めませんでした。
このように、コーヒーや野菜の摂取が多いほど、肝細胞がんの発症率が低下し、コーヒーや野菜の摂取を増やすと肝細胞がんの発症率を半分以下にできることが多くの疫学研究で明らかになっています。 漢方薬もコーヒーも野菜も、肝機能改善とがん予防に有効な成分を多く含みます。その結果、これらを多く摂取すると肝臓がんの発生を予防する効果が得られるのです。
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図:漢方薬やコーヒーや野菜には、様々なメカニズムによって肝機能を改善し、肝臓がんの発生を予防する成分を多く含む。したがって、これらの摂取量が多いと、肝炎の進展を抑制し、肝機能を改善し、肝臓がんの発生や再発を予防する。 |
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