漢方薬が抗腫瘍免疫を高める理由

・体にはがんを押さえ込む免疫力が備わっている

がん細胞が発生しても、私たちの体はだまって見過ごしているわけではありません。免疫力やいろいろな仕組みを使ってがん細胞を排除しようとします。「免疫」とは異物に対して攻撃を仕掛けて排除しようとする生体防御の要です。異物とは外部から侵入してきた細菌やウイルスなどの病原菌のみならず、体内に生じたがん細胞も含まれます。免疫は主にリンパ球という細胞が中心になってコントロールされています。リンパ球にはB細胞・T細胞・ナチュラルキラー(NK)細胞などがあります。
 
これらの免疫細胞の働きが弱まるとがんが発生しやすくなります。免疫機能の低下の原因として最も重要なのは老化によるものであり、そのほか精神的・肉体的なストレスや栄養障害なども重要です。老化とともにがんの発生が増えることや、ストレスががんの発生や進行を促進することも、その原因は免疫力が低下するからです。抗がん剤や放射線や手術といったがんの通常治療も免疫力を低下させる欠点があります。がんの漢方治療の最大の目的は、通常治療やがんの進行によって低下した免疫力を回復させることにあります。


・漢方薬は免疫力が高まる体の状況に仕上げる

免疫増強作用をもった薬剤や健康食品をいくら大量に使っても、栄養状態が悪かったり、組織の血液循環が悪くて新陳代謝が低下しているような体の状況では、免疫力は十分高まりません。
体の正常な機能を阻害する要因を除去し、足りない部分を補うために必要な生薬の組み合わせを考えることが漢方治療の基本です。免疫力を高めるためにも、まず患者さんの背景にある身体の異常に視点を置き、消化吸収機能を高めて栄養状態を良好にし、全身の血液循環を良い状態に保持し、組織の新陳代謝や諸臓器の機能を高めるなど、体全体の機能をバランスよく良好な状態にするという全人的な視点を重視します
 
専門的には、気・血を補うという観点から補気薬(ほきやく)や補血薬(ほけつやく)が使用され、血液循環の改善の目的で駆お血薬(くおけつやく)を用い、消化器系の機能を高めるために健脾薬(けんぴやく)が用いられ、新陳代謝の低下があれば補陽薬(ほようやく)や散寒薬(さんかんやく)を用いる、といった具合です。
たとえば抗がん剤治療を受けている患者さんを漢方的にみると、気・血が量的に損なわれ「気血両虚(きけつりょうきょ)」の状態にあり、気・血の巡りも悪くなって気滞(きたい)やお血(おけつ)の状態になっています。このような状態を改善せずに、いくら免疫細胞を刺激するサプリメントを摂取しても、免疫力を高めることはできません。


・補剤は細胞性免疫を高める

免疫を調整するヘルパーT細胞には細胞性免疫を担うTh1タイプと液性免疫を担うTh2タイプがあります。がん細胞を攻撃するのはTh1細胞の働きです。
 
生体防御の免疫系において、栄養不全・加齢・ストレスや慢性疾患などの要素が存在すると、T細胞はTh2タイプへの分化が亢進し、Th1タイプが抑制されることが知られています。このような生体防御のひずみによってTh1タイプのT細胞の機能が抑制されるとがんや感染症に対する免疫力が低下することになります。
 
高麗人参(こうらいにんじん)・黄耆(おうぎ)・(じゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・甘草(かんぞう)などの補気・健脾薬は単球/マクロファージの活性化によりTh1優位の免疫応答反応を誘導し、感染防御や抗腫瘍に働く細胞性免疫を賦活化します。補気剤の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、T細胞のTh1タイプへの機能分化を優位にするように作用することが報告されています
気血の両方を補う漢方薬の代表である人参養栄湯(にんじんようえいとう)や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)はさらに骨髄造血機能を回復させる効果も証明されています。このように補剤には生体防御のひずみを是正してT細胞の機能分化を調整し、特に栄養不全・加齢・ストレスや慢性疾患における細胞性免疫機能の低下を改善する作用が期待できます(図)。
 
補中益気湯などの補剤にはマクロファージの活性化、リンパ球数の増加、NK細胞活性化などの免疫増強作用が報告されています。このような作用は補中益気湯がTh1細胞を活性化することで説明されています。低下したTh1細胞の活性を上げるという補中益気湯の効果は、老化に伴う抗腫瘍免疫の低下を回復させることや、真菌や細菌に対する感染防御力を高めることなど、多くの実験結果からも支持されています。 


・免疫力を高めるだけでは逆効果もある

免疫力を高める健康食品(アガリクス、メシマコブ、冬虫夏草など)や、高麗人参のような滋養強壮剤を含む漢方薬は、抗がん剤のようながんを攻撃する治療と併用する場合や、がんの発生を予防する目的には良いようです。しかし、がんが進行しているときには、がん細胞の増殖を抑える配慮を行わずに、単に免疫力の賦活だけを行うと、がんが進行したり病状が悪化する場合もあるので注意が必要です
 
活性化したマクロファージは、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)インターロイキン-12 (IL-12)を合成します。IL-12はナチュラルキラー細胞を活性化し、細胞性免疫(Th1細胞)を増強して抗腫瘍的に働きます。TNF-αはその名の通りがん細胞を殺す作用があるのですが、大量に産生されると悪液質の原因となり、酸化ストレスを高めたり、腫瘍血管の新生を刺激する結果になります。
 
このようにマクロファージを活性化することは、免疫力を高めて抗腫瘍効果を発揮することになるのですが、場合によっては、がん細胞の増殖を促進したり、症状を悪化させる可能性もあるのです。
 
漢方のがん治療では、滋養強壮や免疫力増強の目的で補剤を用いるときには、炎症を抑える清熱解毒薬(せいねつげどくやく)や気血の流れを良くする駆お血薬(くおけつやく)や理気薬(りきやく)、抗がん作用をもった生薬と組み合わせるのが基本です。これは免疫を高めるだけではがんを悪化させることを経験的に知っているからです。
漢方薬にはβ-グルカンを豊富に含むサルノコシカケ科のキノコ由来の生薬(霊芝(れいし)・猪苓(ちょれい)・茯苓(ぶくりょう)など)や高麗人参(こうらいにんじん)や黄耆(おうぎ)など免疫増強作用をもった生薬が豊富ですが、漢方の強みは、それらが効果的に働くような全身状態に仕上げることと、がんを悪化させないための配慮がなされている点にあります。

図:漢方薬は、マクロファージを活性化してTh1細胞への機能分化を促進すると同時に、栄養障害・悪液質・加齢・ストレスといったTh1細胞の機能分化を阻害する要因を改善することによってがんに対する免疫力を高めることができます。
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