漢方薬において何種類もの薬物を用いて調合するのは、複合的な作用をねらってのことですが、重要なことは、病気を治す強い生薬を主とするときでも、必ず体の抵抗力や治癒力を助ける生薬も加えておくことが原則となっていることです。このように、作用の弱い薬により重要性を見い出し、治療に利用してきた点が漢方薬の特徴といえます。
西洋医学の治療では、同時に何種類もの西洋薬が処方されることが多くあります。この場合、何種類を同時に飲んでも各々が理論通りの薬効を現わすという前提で使用されているのに対して、漢方薬では最初から薬の複合効果を前提に作られており、この複合効果を経験的に蓄積してきたのが漢方薬なのです。
作用が相反する成分が含まれていると、それぞれの効果が相殺されると考えられますが、恒常性維持機能が常に働いている生命体では、このような相反する作用がバランスの正常化へ作用することもあります。
例えば薬用人参は、沈滞したり興奮したりする気分を正常化させる作用があります。人参サポニンの一種のジンセノサイドRg群には中枢興奮作用があり、ジンセノサイドRb群には鎮静作用が知られています。このような相反する作用をもった複数の成分の総合的効果は体の状況に応じて変化します。
すなわち、人参は、気持ちが滅入って何もする気が起こらない人には気分が昂揚してやる気を引き出し、逆に興奮している人には精神を安定させて落ち着かせる効果を発揮します。これからがんばらなくてはならない時に飲めば、興奮作用が働いて徹夜しても仕事ができますが、寝なければならないという時にこれを飲むと、今度はその鎮静作用のほうが働いて静かに眠れるのです。このような作用の違いは、生体の諸機能の働きが絶えず変化し、その時の内分泌系や神経系などの恒常性維持機構の方向性にしたがって効果を発揮するようになっているからです。
生命体の恒常性維持機能を利用して、複数の生薬の効果の相乗作用や複合作用を経験的あるいは理論的に応用したのが漢方薬の構成の考え方であり、生薬の組み合わせによるカクテル効果を狙っているのです。
漢方は体の偏りを正常化し、人間のバランスを調和する哲学であり、漢方薬はその歪みの調和剤といえます。このような効果は多数の成分のカクテル効果や総合的な作用により発揮できます。
多数の成分の相互作用を調べる方法は現在の科学技術をもってしても不可能ですが、解明できないからといって無視するのではなくて、経験的な治療効果という結果にもっと目を向ける必要があります。
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